ゆるふわコンペブログ

交渉コンペの考察を載せていきます。

法律英語を知る

みなさん、善意と悪意の意味はご存知だろうか?

ご存知ですよね笑

ご存知のように善意、悪意は日常用語と法学で用法がまったく異なる。

 

同様に、英語にも法学特有の用法をする語句があり、英文契約中の英語もそのような用いられ方をするものがある。

だから、問題文中の契約書で知らない語句があった場合、ジーニアスやオックスフォードのように普通の辞書に終始せず、法律用語の書籍をあたることは必須である。

それをせず、「世界的に定評のある〇〇出版の××によると~」と辞書の格で勝負しても、審査員は「はいそうですね」とはならない。

 

最たる例はshallとmayである。shallは債務、mayは債権を表す。

中学校、高校でshallというと、"shall we ?"や"shall I?"という疑問形の用法しか出てこないのに、コンペでは突然平叙文で出てくるので面食らった人もいるのではないだろうか。これは法学特有の用法である。

模擬仲裁で債務不履行責任の追及をする以上、shallやmayを知らないとさすがにキツいと思う。しかし、練習試合をやっていると、「shallだから義務がある」と主張できた方が論破してしまったりするようで、ちゃんと教わっている人はあまりいないようである。

 

他には、2020年のworkmanlike manner 。これはネットで調べると出てくるが、

 

不特定の、「普通の職人」であればある程度以上のレベルの技術・技能を持っているはずですから、そのレベルを満たすように仕事をしてくださいよ、という要求基準なのです(

実践!法律文書翻訳講座 第二十五回 【最終回】 英米法の概念 - ハイキャリア

 

という。水準、質の話だと分かる。平均的な専門家の水準を確保しますという話だということになる。ただし、プログラミングというのはプロであってもバグは生じてしまうので、この文言を根拠にバグを生じさせるなとはいえないだろう。

入賞校の準備書面を眺めてみると、理由も特に示さずに自由奔放な解釈をしているものが散見される。例えば、workmanlike mannnerが単独で、個人情報防止漏洩を防止すべき義務を発生させるのだという具合。ネットで検索すれば出てくるようなものは、さすがに…と思ってしまう。

コンペ(ラウンドA)に判例は必要か

2018年大会当日、ラウンドA東大対九大の対戦室を観戦した。

その年の九大はあまり強くなかったようで、終始東大が優勢だった。

 

しかし、審査員講評のとき審査員が東大に問い詰めた。

「なんで判例を使わないのですか?」

例年審査員講評は「みなさんハイレベルですね~」などとお世辞を言う(褒めるけど点数はくれない)ことが多いので、異例の詰問に対戦室が凍ったのをよく覚えている。

 

しかも、採点結果を見ると、ラウンドAだけで優勝校(オーストラリア)に12点差をつけられていた模様。ずいぶんと審査員を失望させたようである。

 

そこで太田教授(当時)に判例はどこのものを使えばよいのか尋ねてみた

当事者の事前に合意した準拠法の判例,合意がないなら国際私法によって決められる準拠法の判例というのが公式の回答じゃないでしょうか? ユニドロワを準拠法としてなされた裁判例ということでしょうか.それ以外の判例は,参考にはなりますが,法的根拠になならないでしょう(国際私法条の原則によってある程度参考にするべきであることを示した上で,説得の材料には使えますでしょうが・・・).

 

ユニドロワ以外の判例を使えば、相手が何の関連性があるのかと突いて来るでしょうから、それに対応できるだけの準備をしておくことも含めての指摘でしょう。

という。

 

unirexというユニドロワの判例を載せたサイトが一応ある。

しかし、そのサイトは使用言語がまちまちである。紛争発生国に応じて異なるようで、私が調べようとした事案はイタリア語で書いてあった。

「このサイト、使い物になるのか…?」と思うに至った。その質問を平野温郎教授にぶつけてみると、「分からない」とのことだった。

というわけで、ユニドロワの判例を探してくるのは現実的ではない。

 

ではどうするか。

準備書面模範例 3pでは日本法判例を断りもなく用いている。日本法の判例でもグレーではあるが、使わないよりはいいというところだろうか。

例えば、2020年の問題では、システム開発契約にてシステムのバグがあれば債務不履行はあったといえるのかが争点になっていた。これを示したのが東京地判平成14年4月22日で、

「注文者から不具合が発生したとの指摘を受けた後、請負人が遅滞なく補修を終えるか、注文者と協議した上で相当な代替措置を講じたと認められるときは、システムの瑕疵にあたらない。」

という。こんな具合に争点について示した日本法判例は結構存在したりする。(ちなみに2020年明大にこの判例を教えてあげたところ、自分たちの独自の解釈に合わせて判旨をでっち上げていたが、当然誤った態度である)

 

 

他方、別の審査員はウィーン売買条約判例が使えるという。同条約の判例集は日本語で市販されている。

なぜウィーン条約判例が使えるかという説明はなかったが、おそらくユニドロワとウィーン条約の関係にある。両者は完全に別の法ではなく、実質的に同一の法という運用がされている。例えば、仲裁判断において、何の説明もなくユニドロワ国際商事契約原則7.4.9条がCISGの基礎を成す一般原則として適用されている事例がいくつかある(山手正史先生から伺った話)。

判例集を手元に置いておくくらいはあっていいだろう。

 

いずれにせよ、判例を調べるのが面倒だから逃げてしまおうという態度をとると間違いなく評価は伸びないだろう。では、どうやって判例を見つければいいのか。

判例集に載っていれば良いが、上記地裁判例なんかはなかなか見つからないだろう。そういうときは弁護士の先生に聞くのが一番である。大学の授業のレポートとは違い、他人の見解を仰ぐことも規約上問題ない。したがって、今のうちから弁護士の先生や、詳しそうなOBOGを押さえておくことも肝要であろう。

【超有益情報】運営の考えを知る

交渉コンペで高得点を取るためには、何が評価されるかを知る必要があります。

ただ闇雲に頑張っただけではダメです(それはどのチームもやっているわけで)。
評価を下すのは審査員、つまりは他人です(入試や就活もそうですね)。

頑張ったつもり、自分なりでは無意味です。それを受け入れないと、本番で失敗した後、審査員の採点のせいにしている痛々しい参加者になります(なら出るなと思います)。


太田先生は以前セミナーでこんなことを仰っていましたが、正直ピンときませんね。

 

 

さて、いきなりですが課題です。

2017年レアメタル事件についての準備書面作成例(ここから開いてください)について、どこを修正すべきか考えてみましょう。

 

この準備書面は、東大ロー生(当時)が作成したものを筆者で改作した(コンペ仕様に直した)ものです。なので、どこを修正すべきかといっても、そこらへんのコンペチームの準備書面よりもかなり出来はいいはずです。

 

この準備書面ですが、昔太田教授(運営委員)が添削に奇跡的に応じてくれました。今はそういうことは教えてくれないみたいなので、もうこのような資料は現れない、貴重なものです。東大の後輩たちの教材にと頑張って作ったのですが、結局使われていないようでドライブで塩漬けになっているようです。その後、準備書面の書き方を教える際に数校に見せました。このまま使われないのも勿体ないし、知っている学校と知らない学校があると公平でない気もするので読者の方に公開します。

drive.google.com

こちらからどうぞ。ここから運営委員の考えを読み取ってください。

 

一番多いのが理由づけの不足だということに気づきましたか?

これでもコンペ参加校よりは理由づけが多いはずですが、それでも足りないということです。求められる理由づけの量はかなり多いです。

練習試合や本番で、闇雲に行間開けまくったり、条文丸々引用してスペースなくしたりしていませんか…?よく見かけます。お気をつけて。

ユニドロワとは何か

ラウンドAが法律ゲーなのは分かった。じゃあ出題範囲はどこなのかを考えよう。債権総論や行政指導といったように年特有の事項も別途存在するが、毎年出るのは、国際私法(特に国際商取引法)、契約法、民事訴訟法である、

 

仲裁は例年、ネゴランド国とアービトリア国という架空の(変な名前の)国を舞台としている。「仲裁も交渉も、国際的なビジネスを題材とした」ということだ。異なる国の企業間で行われる商取引とそこでの紛争が題材になっている。

 

両国とも日本ではない国だから、ラウンドAで適用される法(準拠法)は日本民法ではない。国内法人同士であれば当然に日本法が規律するが、異国間の取引だと当然に適用される法が決まるわけではない。日米企業間に紛争が生じ、日本に裁判管轄、英米法を準拠法となった結果、日本の裁判所が英米法を適用して、判断するさえもこともある。まして英米法だと判例法。管轄は神戸地裁で準拠法はイギリス法という事例があって、当事者が判例を出してきた。お互いアメリカの弁護士雇って判例を出して、このようなルールを形成すべきなんて主張する。そんなことも起こり得る。異国間の取引では、どの国の法を適用するというのが大きな問題なのだ。

 

コンペでは例年ユニドロワ国際商事契約原則(UNIDROIT)という規則を準拠法としている。これは、国際的な商事契約の取引原則について、日本を含む各国の学者と実務家が検討して、1994年に条文の形で表し、解説を付したものである(中田8頁)。

 

さらに、訳者はしがきによれば

 

国際取引は、そこに適用される法が国によってバラバラであることが大きなコストとリスクの要因となるため、早くから法統一に向けての動きが盛んであった。とりわけ著名なのが、国際売買に適用される法の統一をめざした国連のウィーン売買条約である。…しかし、この条約の対象が売買に限られていることから、適用対象を契約一般に拡大し、国際取引における統一契約法のモデルを策定して、当事者が合意で契約中に取り込めるようにする、というのがユニドロワ国際商事契約原則の当初の目的であった。

 

とある。どうやら崇高な目的があることは分かるだろう。つまり、国によって契約法が違うから、万国共通法を作ってしまおう、そうすれば上のような問題は解決するということだ。

 

同じ目的で定められたものとしてウィーン条約がある。こっちでもいいじゃないか。それはよく分からない。民法ウィーン条約だと学力や学習の進み具合で勝負がついてしまうからだという言う人がいるが真偽は不明である。

 

いずれにせよ、ユニドロワも法である。そこで、未知の条文に対して、法律学の知識を用いて条文解釈をできるか、ということを審査員は見ている。コンペを謎解きや純粋なディベート感覚で捉え、法律から逃げられると考えるのは間違いである。なお、ウィーン条約は司法試験の選択科目国際私法でたまに出ることがあり、一応司法試験の範囲でもある。

交渉コンペラウンドA 工場事件準備書面作成例

以前、練習試合用に後輩に代わって作らされた工場事件(2011年)準備書面作成例が発掘されました。せっかくなのでアップしようと思います。こちらからどうぞ。

大昔に作ったやつなのであまり正確ではないかもしれません。読者が増えたら直します…。

仲裁とは何か

コンペは仲裁(Round A)と交渉(Round B)の2つに分かれる。交渉コンペといいながら、仲裁は半分のウェートを占めている。

 

そもそも、仲裁(国際商事仲裁)とは何か説明できるだろうか。

私が3年生の夏学期に交渉ゼミで初めて仲裁を扱ったときは単に交渉の人数が3人に増えただけくらいに思っていたが、もちろん間違いである。

 

日常的な意味では、「対立し争っているものの間に入ってとりなし、仲直りをさせること」(大辞泉)。よく使われるのは「けんか仲裁」である。他方、法的な意味での仲裁とは、当事者が、紛争の解決を第三者(仲裁人)の判断に委ね、その判断(仲裁判断)に服する旨の合意(仲裁合意)に基づき紛争を解決する制度(井上)を指す

 

 

どうやって紛争をどのような手続きで解決するかを事前二当事者が決められるということで、それを国家法も国際法も尊重するということである(太田)。紛争当事者が事前の合意に基づいて解決機関を裁判所から別に人間に差し替えるのである。

 

裁判を排除すると聞くと、「なぜそんな制度を使うんだ」と不安になるのが素人感覚であろう。ところが、異国間の法人間での紛争解決ではほとんど仲裁が用いられている。むしろ、こちらがスタンダードなのだ。国際裁判くらいのイメージだ。

 

裁判が用いられないのは裁判所判決を外国で執行することが困難なためである。日本で勝訴判決を得た際に、相手方の財産が日本国内にある場合に強制執行することは難くない。では、外国にある場合はどうか。外国だから日本の主権外なのであり、国家権力に無断で金品を奪ってくることはできない。

 

外国で執行するためには当該国家の承認が必要なのだが、かと言ってその承認が簡単には得られない。例えば、日中二国間では裁判の執行が認められていない。日中間の経済取引の規模の大きさからすると意外に思った方も少なくないのではなかろうか。つまり、日本の裁判所で外国企業相手に勝ってもその実効性に乏しいのだ。

 

これに加えて、外国の裁判所が現地法人を依怙贔屓することが途上国を中心に多く、その中立性の問題からも仲裁が選択されている(井上)。

 

他方、仲裁は159国以上加盟のニューヨーク条約によって、仲裁合意の効力を承認するとともに、外国仲裁判断の承認・執行の要件を定めている。条約締結国では、外国仲裁判断は、執行拒否事由がない限り強制執行を行うことが可能になる(井上)。例えば、中国が相手であっても仲裁で勝訴してしまえば強制執行が可能となる。そこで、外国法人相手になると裁判ではなく仲裁を選択するのが実効性の観点から適切ということになるコンペが模擬裁判ではなく模擬仲裁を種目にしたのも、「仲裁も交渉も、国際的なビジネスを題材とした」ことによると思われる。

 

紛争の解決を当事者が設計できる以上、法学自体に縛られない仲裁の設計も不可能ではなく、純粋な正義概念によって解決する仲裁も地球上には存在する。しかし、コンペは設定上そのようにはなっていない。この点について、運営の声明を参照すると、

 

仲裁はUNIDROIT国際商事契約原則を準拠規範とするもので、参加者は弁護人団となって、仲裁人役の審査員を前に、説得力ある弁論を行います。大会の前には、準備書面答弁書の提出も求められます。


とある。基本的には法の運用を問われる種目である。仲裁人自体に法的判断ができないというのは設定上なく、当事者が法的に間違った議論をした場合には採点上低く評価されるのは当然といえる(太田)。以前指導した出場者が、法学に固執しない方針だと強弁していたが誤りである。

 

 

※略称

井上…井上葵先生(毛利・アンダーソン・友常法律事務所)より伺った話

太田…太田勝造先生(明大)より伺った話

はじめに

「太田ゼミは出会い系エンターテイメントゼミだよ」「太田ゼミはリア充ゼミだ」

そう聞いて僕も太田ゼミに応募してから早何年だろうか。

 

 軽く自己紹介。コンペは2015年に東大チームとして出場し、一応仲裁班長をしていた。この年度は交渉がコケたため3連覇を逃してしまったのだが、それでも仲裁が歴代最高点を取った代である。根拠、データに裏打ちされた指導をモットーに後輩の指導もしていたが、代が離れてきたためか呼ばれなくなったので、このブログを開設することにした。

 

そういうわけで、このブログはラウンドAを扱う予定でいる。3年生の頃、引き継ぎ書には「論理に強い東大生にとって仲裁は得意分野であるといえます。2013年度も、2014年度も(減点除く)も、仲裁分野において東大は全大学1位をとり、貯金を作りました。逆に言うと、仲裁は絶対に勝たないといけないところです。」と書いてあり、勝って当たり前という空気だった。ところが、シンガポール国立大やオーストラリア等、他校の台頭もあって、最近はそう簡単にいっていないようだ。

 

交渉コンペの仲裁の問題は難しすぎる。学部の民法では解けない。出題範囲は、国際私法や契約実務に及び、私は法科大学院生レベルの問題だと思っている。練習試合は過去問題なので過年度出した準備書面を焼き直してごまかせる(練習にはならないが)ものの、本番になるとそれも使えない。学部3~4年生が本番2か月前にスイッチを入れて取り組もうとするのは、無謀なスケジュールでしかない。泥沼にはまって当然である。こうして準備書面提出締め切り前に徹夜をしまくる地獄が毎年繰り返されている。私も参加者だったときに5徹させられたり、月あたりの拘束時間が500時間になったりと、それはそれは酷かった。過労死ラインを余裕で超えている。

 

拘束時間は加点要素ではないから、こうならないために早めに対策を講じておくことが必要不可欠である。自分達だけでは分からないと判断したら早めに先輩に教えを乞うべきである。自分達でやり遂げる!といったカッコつけは絶対にしてはいけない。絶対にできません。と言い続けているが、そういう連中は未だにいなくならないし、そういう輩は例外なく負けている。OB等への照会はむしろ運営が推奨するところであり、出題者はそういう準備を求めていると思われる。

 

以前は、交渉ゼミはどの大学でもいわゆるリア充ゼミだった。リア充ゼミで人気を高めておいて、コンペの参加者を確保しようという、よくできた仕組みであった。しかし、コロナ禍でそういうのも廃れ、残ったのはただのブラック環境だけである。そうするとコンペの競技人口は減って当然であろう。このブログを助けに、少しでもコンペの負担が軽減され、また結果も出ることを願ってやまない。