ゆるふわコンペブログ

交渉コンペの考察を載せていきます。

コンペ(ラウンドA)に判例は必要か

2018年大会当日、ラウンドA東大対九大の対戦室を観戦した。

その年の九大はあまり強くなかったようで、終始東大が優勢だった。

 

しかし、審査員講評のとき審査員が東大に問い詰めた。

「なんで判例を使わないのですか?」

例年審査員講評は「みなさんハイレベルですね~」などとお世辞を言う(褒めるけど点数はくれない)ことが多いので、異例の詰問に対戦室が凍ったのをよく覚えている。

 

しかも、採点結果を見ると、ラウンドAだけで優勝校(オーストラリア)に12点差をつけられていた模様。ずいぶんと審査員を失望させたようである。

 

そこで太田教授(当時)に判例はどこのものを使えばよいのか尋ねてみた

当事者の事前に合意した準拠法の判例,合意がないなら国際私法によって決められる準拠法の判例というのが公式の回答じゃないでしょうか? ユニドロワを準拠法としてなされた裁判例ということでしょうか.それ以外の判例は,参考にはなりますが,法的根拠になならないでしょう(国際私法条の原則によってある程度参考にするべきであることを示した上で,説得の材料には使えますでしょうが・・・).

 

ユニドロワ以外の判例を使えば、相手が何の関連性があるのかと突いて来るでしょうから、それに対応できるだけの準備をしておくことも含めての指摘でしょう。

という。

 

unirexというユニドロワの判例を載せたサイトが一応ある。

しかし、そのサイトは使用言語がまちまちである。紛争発生国に応じて異なるようで、私が調べようとした事案はイタリア語で書いてあった。

「このサイト、使い物になるのか…?」と思うに至った。その質問を平野温郎教授にぶつけてみると、「分からない」とのことだった。

というわけで、ユニドロワの判例を探してくるのは現実的ではない。

 

ではどうするか。

準備書面模範例 3pでは日本法判例を断りもなく用いている。日本法の判例でもグレーではあるが、使わないよりはいいというところだろうか。

例えば、2020年の問題では、システム開発契約にてシステムのバグがあれば債務不履行はあったといえるのかが争点になっていた。これを示したのが東京地判平成14年4月22日で、

「注文者から不具合が発生したとの指摘を受けた後、請負人が遅滞なく補修を終えるか、注文者と協議した上で相当な代替措置を講じたと認められるときは、システムの瑕疵にあたらない。」

という。こんな具合に争点について示した日本法判例は結構存在したりする。(ちなみに2020年明大にこの判例を教えてあげたところ、自分たちの独自の解釈に合わせて判旨をでっち上げていたが、当然誤った態度である)

 

 

他方、別の審査員はウィーン売買条約判例が使えるという。同条約の判例集は日本語で市販されている。

なぜウィーン条約判例が使えるかという説明はなかったが、おそらくユニドロワとウィーン条約の関係にある。両者は完全に別の法ではなく、実質的に同一の法という運用がされている。例えば、仲裁判断において、何の説明もなくユニドロワ国際商事契約原則7.4.9条がCISGの基礎を成す一般原則として適用されている事例がいくつかある(山手正史先生から伺った話)。

判例集を手元に置いておくくらいはあっていいだろう。

 

いずれにせよ、判例を調べるのが面倒だから逃げてしまおうという態度をとると間違いなく評価は伸びないだろう。では、どうやって判例を見つければいいのか。

判例集に載っていれば良いが、上記地裁判例なんかはなかなか見つからないだろう。そういうときは弁護士の先生に聞くのが一番である。大学の授業のレポートとは違い、他人の見解を仰ぐことも規約上問題ない。したがって、今のうちから弁護士の先生や、詳しそうなOBOGを押さえておくことも肝要であろう。