ゆるふわコンペブログ

交渉コンペの考察を載せていきます。

仲裁とは何か

コンペは仲裁(Round A)と交渉(Round B)の2つに分かれる。交渉コンペといいながら、仲裁は半分のウェートを占めている。

 

そもそも、仲裁(国際商事仲裁)とは何か説明できるだろうか。

私が3年生の夏学期に交渉ゼミで初めて仲裁を扱ったときは単に交渉の人数が3人に増えただけくらいに思っていたが、もちろん間違いである。

 

日常的な意味では、「対立し争っているものの間に入ってとりなし、仲直りをさせること」(大辞泉)。よく使われるのは「けんか仲裁」である。他方、法的な意味での仲裁とは、当事者が、紛争の解決を第三者(仲裁人)の判断に委ね、その判断(仲裁判断)に服する旨の合意(仲裁合意)に基づき紛争を解決する制度(井上)を指す

 

 

どうやって紛争をどのような手続きで解決するかを事前二当事者が決められるということで、それを国家法も国際法も尊重するということである(太田)。紛争当事者が事前の合意に基づいて解決機関を裁判所から別に人間に差し替えるのである。

 

裁判を排除すると聞くと、「なぜそんな制度を使うんだ」と不安になるのが素人感覚であろう。ところが、異国間の法人間での紛争解決ではほとんど仲裁が用いられている。むしろ、こちらがスタンダードなのだ。国際裁判くらいのイメージだ。

 

裁判が用いられないのは裁判所判決を外国で執行することが困難なためである。日本で勝訴判決を得た際に、相手方の財産が日本国内にある場合に強制執行することは難くない。では、外国にある場合はどうか。外国だから日本の主権外なのであり、国家権力に無断で金品を奪ってくることはできない。

 

外国で執行するためには当該国家の承認が必要なのだが、かと言ってその承認が簡単には得られない。例えば、日中二国間では裁判の執行が認められていない。日中間の経済取引の規模の大きさからすると意外に思った方も少なくないのではなかろうか。つまり、日本の裁判所で外国企業相手に勝ってもその実効性に乏しいのだ。

 

これに加えて、外国の裁判所が現地法人を依怙贔屓することが途上国を中心に多く、その中立性の問題からも仲裁が選択されている(井上)。

 

他方、仲裁は159国以上加盟のニューヨーク条約によって、仲裁合意の効力を承認するとともに、外国仲裁判断の承認・執行の要件を定めている。条約締結国では、外国仲裁判断は、執行拒否事由がない限り強制執行を行うことが可能になる(井上)。例えば、中国が相手であっても仲裁で勝訴してしまえば強制執行が可能となる。そこで、外国法人相手になると裁判ではなく仲裁を選択するのが実効性の観点から適切ということになるコンペが模擬裁判ではなく模擬仲裁を種目にしたのも、「仲裁も交渉も、国際的なビジネスを題材とした」ことによると思われる。

 

紛争の解決を当事者が設計できる以上、法学自体に縛られない仲裁の設計も不可能ではなく、純粋な正義概念によって解決する仲裁も地球上には存在する。しかし、コンペは設定上そのようにはなっていない。この点について、運営の声明を参照すると、

 

仲裁はUNIDROIT国際商事契約原則を準拠規範とするもので、参加者は弁護人団となって、仲裁人役の審査員を前に、説得力ある弁論を行います。大会の前には、準備書面答弁書の提出も求められます。


とある。基本的には法の運用を問われる種目である。仲裁人自体に法的判断ができないというのは設定上なく、当事者が法的に間違った議論をした場合には採点上低く評価されるのは当然といえる(太田)。以前指導した出場者が、法学に固執しない方針だと強弁していたが誤りである。

 

 

※略称

井上…井上葵先生(毛利・アンダーソン・友常法律事務所)より伺った話

太田…太田勝造先生(明大)より伺った話